皆はやっぱりメタファー買うのかな。
私はと言えば、迷って結局、挙句、予約も何もしていない。
逆に、体験版が配信されていなかったら、ここまで悩まなかっただろう。
なまじどういうものかわかってしまったから、尻込みして、悩んでいる。
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たとえば胡蝶の夢だったり、江戸川乱歩氏の言葉。
この現実が、実は現実でなかったらいいな、なんて思っていた時期があった。
でもその考えは結局のところ、逃避でしかなかった。
逃避、という言い方はあまり、感心されないだろうか。
別に、気分転換とか思考実験とか、あるいは思索の跳躍なんでもいい。
呼び方は。
*
明晰夢を頑張ってみようとしていた話は、以前にした。
結末は語るまでもない。
もし仮に、この世界が夢だとしたら、ある程度は明晰夢だと呼べるだろうか。
現実的な(夢と仮定しているのに、おかしいね)限界を超えない限りでは、
自分の行動を自分で……決定できる。
支離滅裂で結局のところ、執着が破滅と決まっている悪夢と比べたら、
操作可能といえるだろう。
∴
たとえば、夏に閉じ込められた少年。
けれど、秋冬春が存在しなければ、その世界を不審に思うだろうか。
△
現実は無慈悲なまでに連続性を維持し続けるのに対し、
夢は果たして自由だ。
見るか見ないかさえも、私はもうずっと悪夢か何も見ないか、そんなのばかりだ。
いや、結局のところ悪夢でさえも現実の影響下にある。
◇

もしも、それでもこの世界が夢幻であると仮定するならば、
この夢はあまりにも長く、そして悪夢は夢中夢とすれば説明はつく。
∵
『つまり、この世界は現実ではなくて……ただの一度も覚めたことのない夢だと』
ーーそう、リアリティのある夢ーー
『リアリティがあるならば、当然(現実)リアルのことを知らないといけないのでは。ずっと眠ったままでこの世界を構築できるかしら』
ーー夢を構築するにも材料が必要ということ、でもそれは必要がない。僕らが勝手にリアルだって思っているだけだからーー
『……うん?』
ーー例えば物理法則も世界の摂理も、現実とは違うーー
『……』
ーー辛いとか、悲しいとかそんな感情、そんな言葉、概念さえ、本当の現実にはない。だって現実には存在しないからーー
でも、と彼女はつづけた。
『でも、夢で、この長い夢で、少なくともあなたは十二分に苦しんだはずだけれど、十二分に悲しんだはずだけれど。あなた以上に苦しんだ人々を横目で見てきたはずだけれど』
ーーそれは、起きたら……全部忘れてしまうんです。だから、そういうのは概念さえ残らないーー
もしも、と続けた。
『本当に幸福な現実があるとしたら、その世界ではこんな夢は存在すべきではないと思わない?』
ーー夢だとしても僕は存在すべきではない?ーー
『存在の是非はともかく……。現実と夢は、おそらく大きく乖離することはないのではないか、ということ』
夢のない話だと、思ったけれど言わなかった。
『もしくは……』
最後に彼女の言ったそれは、絶望的に可能性のないことに思えた。
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女性、立ち上がって歩き出す。
少年、その後を追う。
一度立ち止まって海に浮かぶ満月を見上げる。
それから慌てて、走り出す。