ーーある夏、10時過ぎーー
男と猫、浜辺に向かって歩いている。
浜辺に向かうために、向日葵が沢山咲いているところを通ることにした。
猫が楽しげに先に進んでいく。
男の背丈ほどもある向日葵、ふと立ち止まってみるとちょうど男の顔と同じ高さにある。
向日葵としばらく見つめあって、少し微笑む男。
そのとき、先行した猫がニャアと男を呼ぶ。
小走りで猫の所へ向かう。どうも猫は花を見たいようだったので、男は優しく猫を持ち上げて、花の前に向ける。
猫は向日葵の花びらに鼻を近づけて、フンフンとにおいをかぎ、それから男と同じように花を見つめた。
(ねえ、この花、私たちの星座に似ているわね)
「本当ですね。そうだ、向日葵って太陽によく似ています」
(ヒマワリ?)
「太陽の方を向く花なんです、たしか」
(この子たちも太陽が好きなのね)
猫は納得して、向日葵畑を抜けて浜辺に出る。
男はゆっくりその背中を追う。
その途中、向日葵の林の隙間から子供たちが見えた。
*
男、浜辺に安物のシートを引いて座る。
猫、波に近づこうとする。
「駄目ですよ。危ないから」
猫、不満げに波打ち際から離れる。歩いているとその先に、さっき見かけた子供たちがいることに気が付く。小学生低学年くらいの男と女、だろうか。髪型から察するに、だが。
麦わら帽子を目深にかぶった女の子の方が、猫の方を見ている。ように思えた。目は見えない。こちらからは。
(知ってる子たち?)猫が振り返って訊いた。
「いえ、でも多分、優しそうな子たち、だと思います」
(ふうん)
男女、すれ違う時、男に挨拶をした。当然、男もそれに応じた。
猫、害意はないと判断したのか、女の子の脛(長ズボンで覆われていた、夏なのに)にすり寄った。女の子、うれしそうに猫を撫でる。
しばらく、その様子を眺める男。
猫、男の子になにか寂しさを感じたのか、近寄っていく。男の子、喜んで、けれどとても慎重に猫を撫でる。
それを見て、なぜか安堵する男。
名残惜しそうに別れる。
*
家路を歩く猫と男。
(さっきの子たち、兄妹かしら)
「どうでしょうか」男、少し悩むそぶりをする。
『あきらかに二人で服装に差があった。男の子と女の子ではそれは、服の質に違いは当然出るものかもしれないが……。それに男の子の顔と腕は、おそらく殴打によって腫れあがっていた』
『あるいは、女の子の方はけがを隠すために、肌を出していなかったのかもしれない』
『虐待』
男、振り返るがもういない。砂浜についた足跡をたどるが、途中で消えている。
(もう帰ったのね)
「そう……ですね。きっと……そうですね」男は救えなかったと、後悔する。
(きっと兄妹よ)
「なぜ、そう思うんですか」
(だって二人ともそっくりだったわ。笑ったときの顔)
男はなぜか涙が止まらなくなる。
(なぜ泣くの)猫は心配そうに見上げる。
「わかりません。でもきっと、そう、兄妹ですよ。きっと、そうだ」