彼は貧しかった
だが、客人である私は大分気を遣われていた
それは彼を訪ねる人がまるでいないから
たまには気紛れを起こしていい人ぶっているのかもしれない
そう思ったが
彼はいつだっていい人ぶっていた
それはもう本当のいい人なのか
判らないのではと思うかもしれない
そういう時はさらに負荷をかけてみると
判別が可能となるが
そこまでする理由はなかったし、
彼の限界が近いことは
僕には判った
笑えていなかったからだ
そして彼は行動によっていい人を装うことができても
表情でいい人を装うことはできていない
してこなかったのだろう
彼の部屋に入り
本棚を見て直感する
この人は蘇民将来の真似をしているのだ
人に良くしていれば
いずれ蘇民将来のようにいいことがあると
それは愚かな考えだ
現に今、君は人々から食い物にされているだけではないか
僕は泣いた
それは愚かなことなんだと
神話は神話でしかない
ことわざは特定条件下でしか真とはなりえない
この世界に後ろ盾なく生きようとするのなら
人を信じないしかないんだよ
涙が止まらなかった
もうこんな世界は嫌だ
もう、嫌だ