――ねぇ、一体何を埋めているの?
――8月。
――8月? それは……なにかの名前?
――8月といったら8月以外の何があるというの?
葉月という名前の人の可能性は……いや、それはない。子供が埋められるものじゃない。小さなシャベルで彼女は地面を埋めて、山にしていた。
小さな山。
――2023年の8月はもう死んだということ?
――そう思ったから、埋めているのだけれど。
――概念を埋めているの?
8月、あるいは夏に由来する何かだろうか。
――概念ではなく、8月。
思い出したのはあの青年のことだった。
夜、丑三つ時、私は山を掘り返していた。スコップで埋葬物を傷つけないように、そうっと。
なにもなかった。少なくとも私の目につく範囲にはなにも。
――夜だから。
汗を拭って、1人呟いたとき居間に人の気配を感じて、目を凝らす。あの男ではなくて安心した。
――おじさんは他人の墓を暴くのが趣味なの。
弁明のしようがなかった。
――違うんだ。ただ、気になって。
――気になったら、お墓を荒らしていいものかしら。
――それは駄目なんだけど……。
――真実の探求者を気取るつもりかしら、あなたの本質は卑しい墓暴きなのね、残念。
何も言い返せなかった。それが私の本質だったからだ。
――8月を、本当に埋めたの? 何もないように、ぼくには見えた。
――埋めたわ、けれど実体はない。
――概念ではないって……。
――行為自体に意味があったのよ。
不思議とすんなり理解ができた。
――埋めるという行為自体に意味があったということ?
――そうしないとお別れできそうになかったのよ。未練があったから。
未練……。ちいさな洞が月によって照らされてる。
――お墓を壊してしまって申しわけありませんでした。
頭を下げた。
――いいのよ。埋めるという行為自体が重要だったから。
あるいは彼女は私の本質を暴きたかったのかもしれない。
白日ではなく、この月光の下に。
――僕も真似をしていいかな。きちんとお別れをしないといけないものがあるんだ。
――お好きにどうぞ。でも、それはもしかして警察……
――違うんだ。警察は関係ないんだ。僕と彼の問題なんだ。
――人が見ていない時にやった方がいいわ。大人がそんな無意味なことをするのおかしいでしょう。
――そうだね、自分で終わりにしないといけないことなんだ。
これは自分だけの問題だ。