
また雪が降っていました。
男は夜、こっそりお墓参りに出かけました。
猫は男のそばで、眠っていたので当然気が付いて、寒くて外に出るのは少し嫌だったけれど、男の後を追いました。
男は小さな花の前でお参りしていました。
それはお墓というより、単なる道端の花でした。
白い小さな花、男がこういう花のことをユリと呼んでいた気もしますが、微妙に花びらの形状が異なる気もしました。
(そこに埋まっているの?)
男は猫に気づいて、振り返りました。
『いえ、遺体はうまっていません。ここには』
(ここには? では、どこに)
男はぼんやりと視線を上げ、自分の吐く息が白いことを確認しているように、しばらく考えていました。
『判らないんです』
猫は男の表情を見て、きっとそれは絶望的なことなのだとそう、思いました。
(でも、地球は大きなお墓のようなものだから……)
『……』
(だから……あなたがここで安寧を祈ることは、きっとまちがいではないわ)
男はなぜだか、涙が止まらなくなりました。
男は冷たくなった手で、猫をそうっと抱きかかえて、家(おじさんの)に帰り、暖かくして一緒に眠りました。