角と胸の部分だけ、白く塗ろうと思って絵具を買ってきた。
スプレーにしておくべきだった。上手く塗れたためしなんてなかったのに。
*
あの、何もかも忘れてしまったら、楽になれるでしょうか。
何もかもを捨てる勇気も持てないくせに、そんなことばかり考えているのね。
沢山、物を持ちすぎたのかもしれません。本当に大切なものはきっと本当に少しだけ……なのかもしれないですね。
少年はうかがうような物言いだったので、それはとても腹立たしく思えた。
たまに、あなたはすべて判っているのじゃないかって、判っていてすべて間違えているんじゃないかって、そう思うときがあるわ。
すべてを間違えることは、すべてに正解すること以上に難しい。
あなたは困難を自ら、選んでいるのかしら。
少年は何も言えなかった。何を言ってもその人を怒らせるだけの気がした。
少年は、けれど、その人のことが好きだったので、それ以上嫌われたくなかった。
もしもすべてに正解することができたなら、少年はその人に好かれたいと思っただろう。
でも、それはできなかった。
*
だからつまり、すべてを忘れてしまうしかなかった。
でも、少年にはそれさえもできなかった。