近所のオーディオ屋さんが取り壊されていたんです。
一度も店に入ったことなんてないだろうに。
一度も店に入ったことはなかったけれど、いつかは入ってみたいと思っていたんです。
うそつき。
……僕には悲しむ資格なんてないでしょうね。ただ、寂しいだけなのかな。
資格はないかもしれない。でも、みんなやっていることだから、罰せられることも待たないだろうね。
みんなやっている?
そう言う気分に浸りたいときだけ、都合よく悲しいものや寂しいものを、見なくてもいいのに、わざと見ようとするんだ。あるいは見せようとするんだ。
なぜ?
他に見られたくないものが、見たくないものがあるからだろうね。
たとえば?
己の醜さとか?
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夜、眠るときに考えるんです。ああ、今日の俺は死んでしまうんだなって。
そう。今日も、もうすぐ死んでしまうわけだけれど、気分はどう?
んー、別に何とも。
なんとも?
毎日死んでいますからね。
その理屈だと、毎日生まれているのかい。
(無言、考えていなかったと焦る表情)
結局、本当の死ではないから、お遊びなんだろうな。
で、でも僕はいつも落ち込んでいるじゃないですか?
それは自分の喪に服しているからなんです。そうすれば、理屈が通りませんか。
馬鹿馬鹿しい。君は他人の死は悼むかもしれない。
でも君は自分の死を悼むことはない。それは断言できる。
……
他人の死を嘆くことは会っても、自分の死を嘆くことはない。君は。
死の恐怖から逃れるために、人は何かを残そうとする、ということですか。
全然違う。話を逸らすくらいなら、話題をこちらによこさないでくれ。
