8月はきちんと埋葬しなければならない
すぐ起き上がってくるから
それと同じくらい6月との別れも注意しなければならない
6月は彼にとって
常に後悔とともに思い出されるものだからだ
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他の月も同じくらいに名残惜しいが
だが、結局彼はいつまでたっても失うことになれる気がない。
慣れるつもりもないように見える。
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そういうと、彼女は疑問を呈した。
ーー残り時間というのは、人生というのは、彼の言語では、考え方として、
あらかじめ所与のものである。そういう考え方ですか。
文法的には、そう見えますーー
彼女は、たまに、まるで言語学者のような物言いをする。
あるいはそうなりたかったのかもしれない。
小説家崩れ、そんなことばがなんとなく、頭に浮かぶ。
物書きから医者になろうとするものだろうか、あるいは
人間の人格のパターンを学ぼうとしているのか。
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結局のところ、彼女にとっては、治療、よりも、解答を得ること、の方が重要なのだ。
それが悪いとは思えない。与えられた仕事を十全にこなすのならば、仕事ができない偽善者気どりよりはよほど世界にとって有益だ。
その偽善者が誰なのかは言うまでもないことだが。
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彼は当たり前のように6月とのお別れを惜しんでいた。
それで、どうなるというわけでもないのに。
悲しみの感情を発露する分、彼は停滞するだけだというのに。