ー冬至ー
男と猫は雪の降る中を歩いている。
猫は初めて見る雪に好奇心を向けている。
男、心配そうに猫の後を追いかける。
ポツンとある街灯の下で猫が立ち止まり、男を待ち語り掛ける。
(ねえ、このままずっと寒くなっていくの)
「2月頃が寒さのピークで、そのあとはだんだん暖かくなっていきますよ。春夏秋冬、今は冬の始まりで、そのうち春が来たら暖かくなります」
(どうしてわかるの)
「そういうふうにずっと……季節が巡ってきていて、記録も残っているんです。よほどのことがない限り、今年も同じですよ」
(じゃあ、あなたは怖くないの)
男、少し考えながら、街灯に照らされた、降る雪を見る。牡丹雪、と男は思うが、その雪が牡丹雪であるかは定かではない。
「怖く……ないと思います」
男自身がなさそうに呟く。
(わたしは怖いわ。初めてのフユだから。2度目、3度目となるとまた変わってくるのかしら)
「でも、大丈夫ですよ。きっと」男、口にして無責任だと自責する。
(最初の一日を生きた存在はどうだったのかしら、初めて夜を迎えた存在は怖かったのかしら)
「怖い?」
(だって、初めての夜だとしたら、明けるとわかっていないのだったら、とても怖かったんじゃないかしら)
「ずっと夜が終わらない?」
(闇が濃くなっていくのよ)
「……」
男、うつむいてそれから、猫の頭を撫でてそうっと抱える。猫は目を細める。胸のあたりで男は猫を抱えて、
「もう帰りましょう。おじさん待っていますよ」
(そうね、少し眠るわ)
猫は男の胸に顔をあてました。まるで男が今生きていることを確認するように。
男、もう一度猫を撫でてからきた方向へと歩き出す。
(終)